江戸時代に当時の日本橋を描いた絵巻「熈代勝覧(きだいしょうらん)」の未来版「日本橋未来予想絵図」を制作するプロジェクトが進んでいる。
熈代勝覧は、1999年にドイツで発見された縦約44センチ、横12メートルを超える長大な絵巻。日本橋から今川橋まで、現在の中央通りに当たる764メートルの問屋街を行き交う人々とともににぎやかに描き出すが作者は不明。
同プロジェクトでは、熈代勝覧に描かれたのと同じサイズの手すき和紙に、同じ中央通りの近未来の姿を描く。日本橋で毎年開催され人気を呼んでいるイベント「アートアクアリウム」などを仕掛けるアートプロデューサー・木村英智さんが発案し、日本画家・西野正望(せいぼう)さんが筆をとる。
2012年に「日本橋」架橋100周年を迎え、日本橋室町東地区開発計画によって、3つのコレド室町やユイトなど、新たな商業施設がオープンした中央通りだが、同作品では架橋150年を祝うパレードを描く。現在は存在しない通り沿いの桜並木や、首都高の高架がなくなり、空を取り戻した日本橋など、住民の願いを込めた作品となる。
オリジナル同様、街の活気も描き出す。祭りのみこしや山車、時代衣装を着た行列、名橋「日本橋」まつりで恒例になったクラシックカーパレードなどを表現。地域で働く人や見物客などを描き込んでいくという。
制作期間は約1年を予定し、「来年の春前」の完成を目指す。現在は実際の建物と見比べながら下書きされた街並みに少しずつ筆を入れている段階。3月に日本橋三井ホールで開催された「江戸桜ルネッサンス」会場では3週間にわたり、ライブペインティングが行われた。そこで西野さんが来場客と直接言葉を交わしたことが、描くモチーフに影響を与えたという。
琳派の再現画から飲料や自動車の広告まで、数々の作品を手掛けてきた西野さんも、「ここまで大きな大和絵を描くのは初めて」という。「土波(どは)」「すやりがすみ」の定番的技法のほか、一枚の絵の中に春夏秋冬を同時に描いたり、一つのキャラクターが何回も登場してストーリーを表したりする「異時同図法」を用いるなど、「大和絵ならではの遊び心を盛り込みたい」と意気込む。
「熈代勝覧を見れば、その時代の生活様式が分かる。しかし、230年前に作られてずっとアップデートされていない」と木村さん。「大きさもタイトルも、存在自体がかっこいい。それでいて誰が作ったかも分からない。当初は博物館に飾られるためじゃなく、その時代の『歌舞伎者』がセンスとお金で作り出したものに違いない。これをアップデートしたい」と語る。