江戸うちわの老舗「伊場仙」(中央区日本橋小舟町)で3月3日、トークイベント「徳川家のひな祭り」が行われた。主催はみゆき通り街づくり委員会。
紀州徳川家19代当主で建築家として活躍する徳川宜子(ことこ)さんを招き、女優・着物モデルの入野佳子さんが聞き手を務めた同イベント。宜子さんが祖母・為子さんや母・寶子さんから伝え聞いた徳川家のひな祭りのエピソードを当時の写真とともに紹介した。
戦前、紀州徳川家が暮らした森ヶ崎(現在の品川区)の邸宅は、通称「VILLA ELISA」と呼ばれた洋館。日常的に音楽会やパーティーを開き、外国人の出入りが多かったが、ひな祭りの際は邸宅内の「サロン」や「ホール」に豪華なひな人形を飾った。多くの人がそれを見物に訪れたため、為子さんと寶子さんは和服で出迎え紅茶で客をもてなしたという。「ひな飾りの一番下の段に生きたアワビとハマグリを供えていた。食べるわけではないが、毎日新鮮なものと取り換えられていたようだ」と寶子さんは当時の思い出を語ったという。
紀州徳川家では女子の誕生の度にひな人形をあつらえていたが、飾る際には代々の人形を一斉に並べる。そのため、段飾りの幅が6~7メートルに達したものもあり、広間いっぱいに人形が並ぶことも。「ひし餅を作るための型枠の横幅が50センチほどあった」「市松人形は小さな子どもくらいの大きさがあった」といい、年代をさかのぼるごとに増す豪華さに会場からはため息が漏れた。
それらの人形も戦災で全て焼け、現在残るものはない。「徳川の歴史を研究する方は多いが、母や祖母、曾祖母(そうそぼ)などの近代の徳川家を紹介する機会はあまりない」と宜子さん。「自分が見聞きしてきたことをうまく伝えていきたい」とも。
イベントでは、小舟町のすし店「舟寿し」が当時のレシピを基に再現した江戸時代のひな祭りのちらしずしと甘酒が振る舞われた。