
落語家・林家正雀さんの落語会「人形町正雀会」が6月7日、日本橋堀留町の老舗呉服問屋「田源」2階で開催された。主催は小堺化学工業(日本橋富沢町)。
2019年の初回開催以来、今回で25回目となる同落語会。コロナ禍の影響で一時中断していたが2022年以降、年4回のペースで定期開催を続け、落語を身近に楽しめる場として人気を集めている。
当日は20人を超える落語愛好家が詰めかけ、席がほぼ埋まる盛況となった。この日は、前座を務めるはずの弟子が都合で欠席したため、正雀さんの独演会の様相を呈していた。14時の開演から約2時間、正雀さんは「鼓ケ滝(つつみがたき)」「山崎屋」「夜もすがら検校(けんぎょう)」の三席を披露。「鼓ケ滝」では、気品ある語り口で西行法師の歌人としての歌に対する姿勢と人情の機微を描き出し、会場を一気に落語の世界へと誘った。続く「山崎屋」では、日本橋横山町を舞台とした商家の主人と花魁(おいらん)のやりとりをコミカルに演じ、場内には笑いと拍手が繰り返された。
中席では演目を一時中断し、質疑応答の時間を設けた。参加者からの質問に対し、落語界の裏話や最初の師匠である林家正蔵さんとの思い出、普段の健康管理術まで幅広く応答。健康診断で世話になった泌尿器科で、お礼を兼ねて一席披露した後にふるまわれたビールが検尿の紙コップに入っていたというエピソードを披露し会場を沸かせていた。
後半の人情噺(ばなし)「夜もすがら検校(けんぎょう)」では、視覚に訴える所作と抑揚の効いた語りで、聴衆に深い余韻を残した。終演後、会場には笑顔と感動の声があふれ、「師匠の身体全体で語る落語に心が震えた」「一席ごとに情景が浮かんだ」との声が聞かれた。
会場となった田源ビルは旧吉原大門通りに近く、2階会場横には往時の雰囲気を伝える「耕書堂」の再現スペースを設置。落語の世界観と江戸文化が溶け合う趣向が喜ばれ、参加者は落語とともに日本橋かいわいの歴史散策の楽しみも味わった。