江戸末期から明治にかけて活躍した絵師、河鍋暁斎の「下絵」を展示する「河鍋暁斎の底力」展が11月28日、東京ステーションギャラリー(東京都千代田区丸の内1)で始まった。
あえて「本画(下絵を描き彩色を施した完成作品)」を一切展示せず、素描、下絵、画稿、宴席で描かれた「席画」、弟子のための「絵手本」などを展示する同展。卓越した表現の力量と息遣いを感じる筆の運びから「暁斎の底力」を存分に味わってもらうという、従来の暁斎展にはなかった試みという。
同展はコロナ禍のため予定していた展示が中止になり、わずか半年の準備期間の中で開催となった。担当学芸員の田中晴子さんは「学芸員が本当にやりたい展示をやろうと企画を出しあったことがきっかけ。暁斎の下絵の素晴らしさを前面に押し出した展覧会をやってみたいと長年この企画をあたためてきた」と話す。
大量動員が見込める企画よりも、見過ごされてきたようなテーマや作家の新たな側面に光を当てることを重視しているという同ギャラリー。過去、展覧会「国芳 暁斎 なんでもこいッ展だィ!」(2004年)で暁斎を取り上げたことはあるが、再評価が進み集客力のある「暁斎展」を開催する予定はなかったという。「今回、本画を出品しない下絵類に絞った展示で『掘り起こすべき意味があり、他館では扱わない企画』ということで開催に至った」と田中さん。
会期中、12月27日の展示入れ替えを含めて166点を展示する。展示品は大半が河鍋暁斎記念美術館の収蔵品。バラバラの状態のままの同館が所蔵する膨大な数の下絵の断片を含め、「底力」を感じさせる作品を選び紹介する。
同展の主催・監修を務める河鍋暁斎記念美術館館長で、暁斎の曾孫にあたる河鍋楠美(くすみ)さんは、「本展で紹介するのは、これまでの展覧会では紹介してこなかった物ばかり。『まじめな絵は暁斎らしくない』と言われてしまうかもしれないが、絵作りに関して実にまじめに取り組んでいる暁斎の下絵を枠にはまらず見ていただきたい」と話す。「本来、下絵は絵師が見せたがらず、ご覧いただく機会のないもの。本画に至るまでの動きもよく見えるため、実力を感じやすい。暁斎の本質や実力を知る機会になれば」とも。
2階ギャラリー奥に展示している大作「女人群像 下絵」は、パーツを探し当て、角度がずれることなくつなぎ合わせるだけでも相当な時間をかけたという。バラバラの状態の物をコツコツと慎重に積み重ねた裏方の手仕事の真剣さも同展示の見どころで、50枚ものパーツをつなぎ合わせているため、一枚の下絵とは思えない重量になったという。
会場では、宴席の限られた時間の中、下書きもせずに一気に書き上げられる「席画」や、弟子思いの暁斎が画題や構図を変えて丁寧に描いた「絵手本」も展示する。本画に近づくまでの過程の下書きをあえて重ねて展示するなどの工夫も施す。
「ステイホームが推奨される中で開催する意義を考えた。暁斎作品のもつパワーが、皆さんを元気づけてくれれば」と田中さん。「会期も長いので多くの方に暁斎の底力に触れていただければ」と来場を呼び掛ける。
開館時間は10時~18時(金曜=20時まで、入館は閉館30分前まで)。月曜(1月11日、2月1日は開館)、年末年始(12月28日~1月1日)、1月12日休館。入館料は、一般=1,200円、高校・大学生=1,000円。チケットは日時指定の事前購入制。2月7日まで。