
日本橋で5月25日、茅場町を起点に東京都心を流れる運河を巡るアクティビティー「東京グレートカヤッキングツアー」の「扇橋閘門(おおぎばしこうもん)」(江東区)を目指すツアーが行われた。運営は「アライブ・アンド・キッキング」(中央区新川1)。
ビルの合間を流れる東京の運河を自らカヤックをこいで進む「非日常の体験」を提供する同ツアー。同社社長の肥塚由紀子さんによると、参加者の大半はインバウンド客という。
大横川から桜並木を眺める「お花見ツアー」がもっとも人気で、このほか霊岸島を一周する初心者向けのコース、ライトアップした隅田川に架かる大橋や東京スカイツリーを望む「ナイトカヤック」なども人気を集める。扇橋閘門までの12キロを往復する約3時間のコースは中・上級者向けだが、「ここでしかできない体験」として参加後の満足度も高いという。
「閘門」は、水位差がある河川を前後2つの水門を使って調節し、船が通れるようにする施設。隅田川、荒川、東京湾に囲まれた「江東三角地帯」と呼ばれる地域は、地盤沈下の影響で東側の多くが海抜ゼロメートル以下になっているため、中央を流れる小名木川に設置した閘門で水位を調節している。西側(隅田川側)は東京湾の潮位の影響で水位が変動する。一方、東側は排水によって常に低水位が保たれている。このため、東西では最大約3.1メートルの水位差が生じる。
「扇橋閘門は『水のエレベーター』のような動きをして、パナマ運河と同じ原理であるため、『東京のミニパナマ運河』と呼ばれることもある」と肥塚さん。「パナマ運河の通行料は1トンにつき1ドル39セントで、平均すると1隻当たり約600万円と高額。それに比べて『東京のパナマ運河』は通行料が無料でお得かもしれない」とも。
この日のツアーは13時30分ごろに出発。参加者は茅場町駅徒歩3分の同社事務所ビルの裏手から直接亀島川に出てカヤックに乗り込んだ。前日までの雨と強風で開催が危ぶまれたが、予定通り行い、6時10分ごろには帰着した。
航路は当日の潮位と風向きによって異なるが、この日は北西向きのスタートで、日本橋水門を越え、先に閘門体験をしてから大横川を南下するコースとなった。14時過ぎに扇橋に到着し、「閘門体験」がスタート。西側の前扉が閉まると、低い水位の東側に合わせて水位が下がる。カヤックはいったん閘室から出て、逆の水位調整も体験。水位が上がるときは、底から給水されて水面に泡が立つのが見えるため仕組みが分かりやすい。水門の開閉は各1分ほどで、操作を管理する東京都江東治水事務所から「2メートル80センチ」などと潮位差がアナウンスされた。
扇橋での体験を終えた後、一行は大横川に戻り再び隅田川を目指した。途中、橋下から水面までの高さが非常に低いことから「サイテー橋」と呼ばれる茂森橋を通過。カヤックと橋の隙間がほぼないため、参加者は体を反らしたままの体勢で橋の底を手で押しながら直進していた。
ツアーガイドの阿部さんは「サイテー橋はツアーが始まって以来、最低の水位だった。あと少し到着が遅れ、さらに潮位が高くなっていたら迂回するしかなかった」と話す。渡り終えた一行はカヤックを連ねて川の上でティーブレークを楽しんだ。
中央区に勤めているという会社員は「閘門というものを初めて知った。さまざまな漕ぎ方が楽しめたのも面白かった。パドルで両手がふさがりスマホが操作できなかったが、逆にスマホのことを忘れて『水上散歩』が楽しめてリラックスできた」と笑顔を見せる。