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人形町の洋食店「小春軒」が創業100年-メニューにオムライスがない理由は?

小春軒名物の一つ「特製盛り合わせ」(1,300円)

小春軒名物の一つ「特製盛り合わせ」(1,300円)

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 人形町の老舗洋食店「小春軒」(中央区日本橋人形町1、TEL 03-3661-8830)が今年、創業100年を迎えた。

「小春軒」の100年は家族の100年

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 内閣総理大臣を務めた山県有朋家のお抱え料理人だった小島種三郎さんが同家の女中頭だった春さんと結婚し、「小春軒」と名付けて1912(明治45)年に開いた同店。「芸者さんが多い街はハイカラなものがはやる」と言われていた当時、繁華街だった人形町に店を構えたことから、この店の物語は始まる。

 関東大震災や戦争で焼失、閉店していた時期もあったが、幾度も同所で営業を再開。地元に愛されながら繁盛を続けてきた。現在は、3代目・幹男(78)さんと妻・絹子さん(72)、幹男さんの長男で今年4月、正式に4代目を継ぐ祐二さん(46)が切り盛りする。

 「メンチカツライス」(750円)、「とんかつライス」(950円)、「ポークソテーライス」(1,300円)など創業当時から残るメニューに加え、カジキマグロのフライ、コロッケ、ホタテフライ、イカのバターソテーなどを盛り合わせた「特製盛り合わせライス」(1,300円)など戦後に加わった人気メニューも。同店のフライは「油っぽさがなく、サクサク香ばしい」と特にファンが多いという。

 「カツ丼」(汁・新香付き、1,200円)は、戦前のメニューを17年前に復活させた。一般的なカツ丼と異なり、割り下にデミグラスソースを使い、カツの上に目玉焼きと炒め野菜を載せたオリジナルレシピで、お抱え料理人としてさまざまなジャンルの料理の修業を積んだ初代が開発した。戦後、メニューから姿を消したが、当時を知る地元の大旦那衆からの要望を受け、幹男さんが幼いころに食べた祖父の味を思い出しながら再現したという。

 同店が100年守ってきたこだわりを「作り置きをせず、できたてを食べていただくこと」と祐二さんは話す。「だから、うちにはオムライスがない」。同店のメニューには、洋食店の定番とも言えるオムライスがない。「オムレツライス」はあるが、オムレツとライスを別々に出すもので、チキンライスを卵で包んだ一般的なオムライスとは異なる。

 その理由について、「オムライスは工程が多く手間が掛かるため、チキンライスをあらかじめ作ってジャーで保存しておく店が多いが、時間がたてば、どうしても油が下にたまる」と祐二さん。「かといって、注文が入ってからチキンライスを作るのは、他のメニューを作りながらでは難しい。できたてにこだわる以上、最後までやらないと決めている。もしもうちがオムライスを出し始めたら、店が傾いてきたなと思ってほしい」と笑う。

 3月8日・9日には、創業100年を記念し、南三陸町商店街復興プロジェクトへの寄付を目的とした100円ランチ企画を行った。ランチ利用客が任意の金額を払い、100円を超えた分は義援金に充てるもので、祐二さんの高校1年生の長男が企画した。開店時から行列ができ、2日間で11万円が集まったという。

 企画の成功に、「小春軒がお客さんに恵まれていることを実感した」と祐二さん。「退職した人が勤めていたころによく来た店だと奥さんを連れて訪れたり、亡くなったご主人が好きだったと言って店の前で泣くおばあさんがいたりした」と振り返る。「いろいろな人の人生の中に小春軒がある。そういう人たちのためにも続けていきたい」とも。

 閉店後、客が去った店内で、家族全員で食事をするのが長年続く小島家の日課だ。小島家の子どもたちは、祖父や父の作った料理を食べて育ってきた。店の壁に張られた「気取らず、おいしく」を守りながら、家族と「みんな」の小春軒がこれからも守られていくだろう。

 営業時間は、ランチ=11時~14時、ディナー=17時~20時(月曜~金曜)。日曜・祝日定休。

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