日本橋の「麗人社ギャラリー」(中央区日本橋本町3)で日本画家、伊藤百香さんの作品展「世界を優しさで抱きしめたい」が開かれている。
東北芸術工科大学(山形市)の卒業生支援プログラム「TUAD ART-LINKS 2023」の一環として同ギャラリーが展開する同展。会場には同大学の「2021年卒業/修了研究・制作展」で最優秀賞を獲得した作品「半径5m、手の届く距離でいいから救いたい。考え続けることをあきらめない、これが私たちの使命!」を含む作品18点を展覧する。
宮城県南部の海沿いに位置する郷里、亘理町で創作活動を続ける伊藤さんは1998(平成10)年生まれ。東日本大震災を12歳で体験し、卒業制作も当初は津波の影響を色濃く残した、ブルーが基調の作品だった。
大学構内にある「こども芸術大学こども園」で仲良くなった子どもたちとの協働で「生きる喜び」をテーマにした絵本作りを考えていたという伊藤さんだが、新型コロナウイルスの影響で制作もままならない中、作品のコンセプトは二転三転して現在の形となったという。
日本画の技法で描かれる縦2.5メートル、幅7.2メートルの作品の中には1000体を超える個性豊かな「蝶」や「獣の目」が観るものを直視する。「作品の中の蝶は希望の象徴でもありSNSなどで無邪気に人を傷つける匿名の暴力でもある」と伊藤さん。
「どんなに理想や希望を抱いていても、ままならないのがこの世界。それぞれの視点や信念が違うから今もどこかで争いが続いている。そんな絶望的な中でも考え続けることをあきらめなければ、誰かと歩んでいくことはできるはず。この世界の『正義と悪』についてそれぞれの視点から考え、日々変わりゆくその姿を、『現代の宗教画』として描いている」と話す。
「私自身が卒業後、理不尽ないじめや暴力の対象となった。コロナ禍もあって外出できない時期が続いたが、友達の助言で作品をNFTで販売することになり、作品のことを知ってくれる人も少しずつ増えてきた」とも。
同ギャラリー責任者の岡田恵さんは「伊藤さんの作品をNFTで購入し、リアルで観るのは初めてという来場者も多い」と話す。「アート所有の新しい形を感じる」と岡田さん。
「感染症や戦争、物価高など明日の予測が困難で不安に苛まれることの多い昨今。『絶望感に包まれて生きる人々を優しさで包みたい』という純粋な想いにあふれた伊藤さんの日本画を、ぜひリアルで観てほしい」と来場を呼び掛けていた。
開催時間は12時~19時(最終日は17時まで、)日曜・月曜・祝日休館。3月10日まで。